観光地と共存共栄、ゆえに自覚する役割

暖簾を破り挑戦を続ける由緒正しき温泉街の蔵

歴史は受け継ぎ、常識は壊す。平均年齢30代、若き蔵人たちは地元愛媛の未来を見据える。自社ではなく、地元のために造る酒には愛媛らしい甘さが光る。

 

世界も認める歴史と伝統の温泉街 道後

日本最古の温泉地として名高い道後温泉は日本の四国地方、愛媛県松山市にある。車夫たちの声で活気づき、路面電車がよく似合うこの街は、道後温泉の発展とともに歩んできた。シンボルである道後温泉本館は2009年、ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで三ツ星を獲得するなど、世界もその歴史と価値を高く評価する。

 

賑やかな商店街のアーケードから外れ、静寂閑雅な熟田津通りを進むと見えてくる茜色の暖簾。水口酒造は道後で唯一の酒蔵として、128年に渡って道後の地酒を造り続けてきた。
主屋は1917年に建築された木造2階建て。国登録の有形文化財(建造物)に指定され、その歴史的価値は折り紙付きだ。土間には蔵の商品が展示される傍ら、道後秋祭りの名物・喧嘩神輿が鎮座する。


由緒正しき歴史を脈々と受け継ぐ水口酒造、一方で宿る精神は革新的かつ型破りだ。
水口酒造は1895年、地酒「仁喜多津」の製造を開始。その後は清酒づくりにとどまらず、製氷やビール、焼酎、ジン、リモンチェッロ、ラムなどの製造にも積極的に取り組んできた。中でも主力の道後ビールは、温泉地ならではの“湯あがりビール”として、道後を訪れる観光客にはもちろん、地元の人々にも身近に愛されている。
かつて、清酒の酒蔵が他の酒づくりに手を出すことは良しとされなかった。そんな逆風のなか、現代表は観光客のニーズに広く応えようと、地ビールや焼酎の製造を開始し、主力事業にまで引き上げた。

「うちのモットーは『暖簾を守るな、暖簾を破れ』。柔軟性やチャレンジ精神を忘れず、さまざまな取り組みに挑戦するようにしています」そう語るのは専務取締役を勤める水口皓介氏。水口氏は東京の大学を卒業後、システムエンジニアとしての勤務を経験し、6代目蔵元となるため地元道後に舞い戻った。


ビールをはじめ、さまざまな酒類製造を手がけながらも、創業当初から続く清酒づくりには一層力が入る。水口氏も自ら現場に入り、杜氏や蔵人たちと昼夜を問わず酒造りに明け暮れる。

 

愛媛らしさが一番の誇り 迎合許さぬ杜氏のこだわり

水口酒造でつくられる日本酒には、仕込み水として創業以来同じ井戸水を使い続けている。水質はミネラルが程よく含まれた中硬水だ。ビールの醸造や製氷にも同じ水が使われているという。


蒸米や洗米は効率を重視し、最新の機械を導入した。一方で、蒸した米はシューターではなく、人力で麹室まで運ぶ。温度管理が命の酒造り。蒸しあがった米を台車に乗せて、蔵人たちが15m程の距離を何度も走って往復する。「機械で効率を上げることも大事ですが、手作業にこだわるべきところはしっかりと残していきたい」(水口氏)。

酒造りの時期になると、厳正な温度・湿度管理のもと麹づくりが行われる麹室は、通常蔵人以外は立ち入ることができない。しかし、諸条件はあるものの、水口酒造では実際に麹室に入り、杜氏や蔵人たちの作業を間近で見学することができる。「自分でイチから仕込んで、室作業もして、最後に自分が搾ったお酒を飲むところまでできる酒づくり体験を企画しようと思っているんです。日本には体験型のアクティビティが少ないので」 (同)。観光業の発展とともに歩んできた酒蔵の目線と企画力はさすがだ。

水口酒造の杜氏として酒造りを仕切るのは菊池賢也氏 。酒造り10年目にして、異例の早さで杜氏を任された。タイミングに恵まれただけと謙遜するが、初年度から入賞を勝ち取った実績が、その実力を裏付ける。


「麹が味を決める。麹が何より一番大事です」(菊池氏)。麹室では米を均一に広げたのち、杜氏の手で麹菌を丁寧に振りかける“種振り”が行われる。この数分間は誰一人として会話も、動くことも許されない。圧倒的な空気感は作業というより儀式に近く、呼吸すら躊躇うほどだ。


菊池氏がこだわるのは、シニア層だけでなく、若い世代や女性にも好んでもらえるような、香り高く甘味のある酒をつくること。「愛媛はだしでも醤油でも、何でも甘いのが特徴なので。辛口ないの?と言われることもありますが、地酒である以上、“らしさ”は譲れません」(同)。

たとえば、そんな菊池氏のこだわりが詰まった“仁喜多津 純米大吟醸酒 無濾過原酒 袋吊り斗瓶囲い”。注いだ瞬間から動物的な力強さと、羽釜で炊いた白米のような優しさの2種類の芳香が広がる。

純米大吟醸らしいバランスの中で、特に際立つのはやはり甘味と旨味。雑味はなく余韻は長い。ブルゴーニュ型のワイングラスで、舌平目のムニエルや、茄子やズッキーニなど瑞々しい野菜の天ぷらに合わせて楽しめそうだ。




菊池氏は日本酒以外の酒づくりも担当する。曰く、「やりたいことは自由にやらせてもらっている。水口専務が叶えてくれるので、満足してますね」(菊池氏)。
水口氏と菊池氏は30代後半で同世代だ。担い手の高齢化が進み、経験と縦社会がモノを言う日本酒業界で、若き世代の蔵元と杜氏が二人三脚で“暖簾を破る”。
「今は菊池が気持ちよく、思いきり力を発揮できる環境をつくりたい。それが蔵にとっても地元にとってもプラスになると思っています」(水口氏)。

売りたいのは「地元・愛媛」そのもの

道後温泉という国内有数の観光地とともに歩んできた水口酒造。一度地元を離れたからこそ、水口氏には感じるものがあるという。「道後に帰ってきて改めて、人が温かくて優しくて、ごはんが美味しいところだなと。温泉以外にも、魅力がたくさんあるんです」(水口氏)。
6代目蔵元として水口氏が見据えるのは、酒蔵の原点回帰と地元の活性化だ。隅々まで道後を見てもらうには、あと1泊長く滞在してもらうには、伝統業の担い手や若きクリエイターを知ってもらうにはどうすればいいか。水口氏は常に自社のみならず、地元活性化に向けた全体像を見据える。


「本来お酒って、人と人とを繋ぐものだと思うんです。現在は“観光地の酒蔵”としての役割に特化していますが、元々酒蔵は人々が自然と集まってくるような、地元のコミュニケーションの場でした。そこに回帰したいですし、酒蔵がハブとなって、地元の魅力を国内外に発信していきたいです」(同)。
水口酒造の目玉商品は、もはや酒ではなく地元・愛媛といえるかもしれない。

 

Minakuchi Shuzo - 水口酒造株式会社

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